「単なる夏風邪だと思っていたら、呼吸困難や肺炎を起こして入院した。」

「風邪の症状は治ったのに、手足に麻痺が残った。」

 

近年、エンテロウイルスd68(EV-D68)が猛威をふるっており、子供に発熱や咳など風邪に似た症状が現れた後、呼吸困難や肺炎など呼吸器に重度な疾患を引き起こす症例が増えていきます。

さらに、EV-D68が流行する6月から12月にかけて、子供たちに、発熱とともに原因不明の麻痺症状が現れ、手足に麻痺の後遺症が残るという事例が相次いでいます。

麻痺とエンテロウイルスd68との関連は不明ですが、厚生労働省の調査によると、麻痺(急性弛緩性脊髄炎)を起こした子供の4分の1からEV-D68が検出されたと報告しています。

 

また、急性弛緩性脊髄炎により、弛緩性麻痺を発症した子供の8割は、発熱などが治まった後も手足に痺れが残っているというのです。

以上から、弛緩性麻痺とEV-D68との関係が強く疑われており、子供たちが発症したり、大人が子供にうつすことのないよう予防策を講じる必要があります。

そこで、今回はエンテロウイルスd68について、症状、感染経路、流行時期、予防法、弛緩性麻痺との関係などについてまとめておきます。

エンテロウイルスd68の症状

ウィルス

国立感染症研究所によると、エンテロウイルスd68に感染し、発症した場合、発熱、鼻汁、咳などの風邪に似た症状が見られます。

一方で、重症化すると、上記の症状に加えて、喘息様発作、呼吸困難、肺炎などの呼吸器の疾患が現れます。

なお、EV-D68が検出された人には、次のような症状が現れています。

EV-D68検出者の症状まとめ

出典:http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/37/432/graph/kt43222.gif

 

上の表から、EV-D68検出者の主な症状としては、発熱、上気道炎、下気道炎などが挙げられ、かぜ症候群(風邪)によく似た症状が現れていることが分かります。

では、次にEV-D68の感染経路について説明します。

感染経路

EV-D68は、感染した人の唾液、痰、鼻の粘液などに出てきます。

そのため、これらの分泌物が付着したものを舐めるなどして、自分の口や喉の粘膜にウィルスがくっつくことで感染します。

また、感染した人のくしゃみ、咳などのしぶきが口や鼻などの粘膜に付着し、そこからウィルスに感染することもあります。

さらに、エンテロウイルスd68は、便の中にも存在するので、感染者の便を触れた後、手をよく洗わないで食事などをすると、自分の口にウィルスを運ぶことになり、感染することがあります。

 

どんな人が感染しやすいのか?

EV-D68は、大人よりも子供が感染しやすいです。

以下の図は、国立感染症研究所がEV-D68感染者数を性別、年齢別にまとめたグラフです。

EV-D68 感染者数 性別 年齢別

 

出典:http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/37/432/graph/kf43222.gif

 

こちらのグラフによると、症例の年齢は、1歳が18%で最も高いです。

さらに、0~6歳で全体の80%を占めており、小さな子供がかかりやすい病気だと分かります。

小児の感染が圧倒的に多いのは、過去にEV-D68に感染したことがなく、免疫を持っていないからだと考えられています。

成人の感染例では、風邪に似た、より軽度な症状で回復した人や感染しても症状が出なかった人が多いようです。

 

アメリカのCDCによると、子供の中でも特に喘息の既往歴がある小児は、EV-D68に感染した場合、重篤な呼吸器の疾患が現れる可能性があると指摘しています。

そのため、過去に喘息を発症した子供がいる家庭では、子供が感染しないように、または自分が感染して子供にうつさないよう特に注意した方がよいでしょう。

続いて、EV-D68に感染してから発病するまでの期間について説明します。

EV-D68の潜伏期間

横浜市衛生研究所によると、エンテロウイルスに感染してから、発症するまでの期間は、3~7日間とのことです。

エンテロウイルスが体の中に入ってから(感染してから)発病するまでの期間(潜伏期)は、通常、3-7日間です。

エンテロウイルスが体の中に入って(感染後)約3日後から、発病して10日後までの間が、通常、他の人にウイルスを広げる恐れがあります。

出典:横浜市衛生研究所
http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/eiken/idsc/disease/entero1.html

通常の鼻かぜやのどかぜの潜伏期間は、おおよそ5~6日なので、感染から発病までの期間も風邪とほぼ同じと言えます。

 

EV-D68はいつ流行するのか?

エンテロウイルスd68は、夏から秋にかけて流行し、9月にピークを迎えます。

 

EV-D68 月別検出数

 

出典:http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/37/432/graph/kf43221.gif

 

EV-D68感染は、風邪によく似た症状が出て、なおかつ夏風邪が流行する時期とも重なるので、風邪と間違いやすく、呼吸器の疾患などで重症化するまで気づかないケースも多いのです。

 

検査方法

EV-D68感染には、特有の症状がないので、臨床症状の診断からEV-D68に感染しているかどうかを判断することは困難です。

そのため、診断には、咽頭ぬぐい液の検体からウィルス分離や、遺伝子検出を行います。

なお、EV-D68の検査は、全国の各地方衛生研究所で実施されているので、お住まいの地域の自治体や保健所に問い合わせて、確認してください。

治療法

EV-D68感染については、抗ウィルス薬はないので、症状に応じた対症療法、支持療法が中心となります。

予防法

EV-D68に対するワクチンがないので、予防法としては、風邪、ノロウィルス、インフルエンザウィルスなどの他のウィルス感染症の対策と同様です。

マスク着用による飛沫感染予防や、手洗いにより、ウィルスが付着した手から鼻や口に感染する接触感染を避ける方法をとります。

また、EV-D68に限らず、呼吸器への感染症が疑われる場合は、咳エチケットを実施することが大切です。

 

【咳エチケット】

  • 咳、くしゃみの際には、口と鼻をティッシュなどで覆い、周囲の人から離れて行う
  • このとき使用したティッシュは、すぐにゴミ箱に捨てて、手を洗う
  • マスクを着用する

 

なお、エンテロウイルスd68は、アルコール消毒には抵抗性が強いので、次亜塩素酸による消毒を行いましょう。

次亜塩素酸は、エンテロウイルスだけでなく、インフルエンザやノロウィルスの消毒にも有効です。

 

では、最後に弛緩性麻痺とエンテロウイルスとの関係について解説します。

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弛緩性麻痺とEV-D68感染との関係

欧米や日本では、弛緩性麻痺(※)を発症した患者からEV-D68が検出された事例が報告されており、弛緩性麻痺の原因ではないかと言われています。

※弛緩性麻痺は、筋肉の緊張の低下によって生じる麻痺であり、腕を動かしたり、歩行することが困難になるなどの症状が現れます。

 

エンテロウイルスd68と弛緩性麻痺との因果関係は不明ですが、日本でも弛緩性麻痺を発症した小児からEV-D68が検出された例がいくつか報告されています。

 

また、冒頭でも説明したように、厚労省の研究班によると、全国の33都府県にて、EV-D68が流行した2015年8月から12月に麻痺を起こした子供95人のうち、61人が急性弛緩性脊髄炎と診断されています。

そして、彼らの4分の1からEV-D68が検出されており、弛緩性麻痺とEV-D68感染の関連が疑われている状況です。

また、麻痺を起こした子供の多くは5歳以下であり、その8割は未だに手足の麻痺が治らないまま残っているとのことです。

 

幼児を持つ親は、特に子供に感染させないように、手洗い、うがい、マスク着用などウィルス感染対策をしっかり行いましょう。

まとめ

EV-D68は、大人よりも小児が感染しやすいウィルスであり、夏から秋にかけて流行します。

EV-D68に感染すると、風邪によく似た症状が現れますが、小さな子供の場合は、喘息様発作、呼吸困難、肺炎など重症化しやすい傾向にあります。

また、近年エンテロウイルスが流行する時期には、弛緩性麻痺の発症者数も増えており、麻痺患者からはEV-D68ウィルスが検出されています。

そのため、子供の弛緩性麻痺の原因としてEV-D68への感染が疑われています。

 

厚労省の調査によると、麻痺を起こした子供の8割程度は、風邪の症状が治まった後も、手足にしびれが残っているとのことです。

そのため、特に小さな子供がいる親は、EV-D68への予防策を徹底し、仮に子供に発熱などの症状が現れ、手足が動かしづらいなどの症状が見られた場合は、すみやかに小児科にかかった方がよいでしょう。

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